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ナマステに笑顔を添えて (第五章・ぽから、ポカラへ) |
ピーノさんとの別れ チトワンで最後のメニューは 「バードウォッチング」 。 レストランのミルクティーで体を温めてから、双眼鏡と図鑑を手にしたピーノさんとホテルを出発した。 今朝も濃霧に包まれている。 この季節は毎日このような霧が発生するのだそうだ。 霧の中で昨日のイギリス青年と会った。 「オ〜! ジャパニーズ・フレンド! グッド・モーニング!」 相変わらず陽気だ。 30分ほど近くの森で野鳥を見た後、ホテルに戻って朝食。 その後に荷物をまとめ、従業員のみなさんが総出で見送ってくれる中を、ジープでホテルを後にした。 バスターミナルにはまだポカラ行きのバスは到着しておらず、しばらく掘建て小屋の屋根の下で待つ。 やがてオンボロのバスがやってきて、それに乗り込む。 座席はピーノさんが交渉してくれて、前列の窓際を確保してくれた。 「ポカラまでは何時間かかるか分りません。途中でこれを食べなさい」 と、別れ際のピーノさんがランチボックスを手渡してくれた。 出発間際になってピーナッツ一家も乗り込んできた。 しかも、また自分の周りの座席だった。 「あ〜あ、またピーナッツ臭いバスの旅か…」 バスが見えなくなるまで、ピーノさんは大きく手を振って見送ってくれた。 火事場を越えて このバスは途中でかなりの乗降があった。 車掌は路上でバスを待っている人を見つけると、 「ポカラ〜 ポカラ〜」 と行き先を叫ぶ。 そのたびに名前を呼ばれているようで、ビクッとした。ウトウトと居眠りもできない。 今回も検問所は難なく通過できたが、やはり山道では渋滞に巻き込まれた。 バスは途中で昼食休憩をとりながらポカラの町へと急いだが、手前の町まで来て、また大渋滞に巻き込まれてしまった。 すぐに運転手はエンジンを切り、様子を見に降りてしまった。 渋滞の少し前方では、炎と黒煙が上がっているのが見えた。 どうやら、道路上で火災が発生しているようだ。 やがて渋滞の列の後ろの方から、長いホースを頭に乗せた3人の男たちがやってきた。 彼らは談笑をしながらゆっくりと歩いている。 「彼らは消防士? まさかね…」 と思っていると、ホースの片方を用水路に入れて消火活動をおこなったではないか。 あんな緊迫感の無い消防士は初めて見た。 煙はまだ上っていたが、車が少づつ動きだした。 前方まで進んで分ったのだが、燃えていたのは道路そのものだった。 アスファルト舗装の工事中だった道路から出火していたのだ。 まだ道路の表面からチョロチョロと火が出ていたが、そんなことにはお構いなしに、バスは炎を踏み付けながら走り去った。 5分と走らない内にまた渋滞。 今度は前方からデモ行進の一行がやって来たのだ。 何故か子どもと女性ばかりのデモ隊は、手にプラカードを持って何かを叫びながら歩いて行った。 ポカラの町には大きなスタジアムがあり、そこでおこなわれていた何かの試合がちょうど終わった時にバスが差し掛かり、ここでも渋滞に巻き込まれた。 結局、今回も通常の所要時間が5時間のところを7時間もかかり、終点のポカラ・バスパークに到着した。 改名…? バスパークにはカトマンズのゲストハウスで連絡をしてもらった、『ミーラ・ホテル』 の従業員が待っていた。 彼の運転する綺麗なワゴン車にほんの10分ほど揺られると、この町でも立派な部類に入るホテルに到着した。 部屋は明るくて広々としたツインルームで、テレビではNHKが映った。 それによると、帰国予定日の東京の天気は雪=B 飛行機に影響しなければ良いのだが… ポカラの町は旧市街とレイクサイドに分かれていて、このホテルのある地区はレイクサイドである。 ここは旅行者の集まるエリアで、ペワ湖という大きな湖のほとりにホテルやレストラン、旅行会社などがあり、カトマンズのタメル地区と同じように、我々のような旅行者には便利な場所なのである。 晴れていればここからヒマラヤの山々を手に取るように眺めることができ、インドを旅行中の旅人が疲れた身体と心を休めるために訪れるリゾート地でもある。 人々に安らぎを与えられるようにと、自分のハンドルネームもここからいただいた。 そんな思い入れのある地に、長年の念願がかなって訪問することができたのだ。 しかし、夕食のために出掛けたポカラの町で思った。 「長年抱いてきたイメージと、どこかちょっと違うな…」と。 ヒマラヤの山々は厚い雲に閉ざされてその姿を見せてくれないし、物価はかなり高いし、欧米人好みの町並みと化しているし・・・ バンコクのカオサンのように、ここはネパールだけどネパールらしくない場所でもあるようだ。 自分が求めていたネパールの安らぎ≠ヘそこにはまったく無かった。 今朝までいたチトワンの方が、よっぽど癒しを与えてくれていた。 「 『ポカラ篤』 改め、『チトワン篤』 にしようかな…」 などと、派手なロックの流れるレストランのテラスから、道行く欧米人をぼんやりと眺めながら考えていた。 |
(第五章 終) ≪前ページへ [目次へ戻る] 次ページへ≫ |