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ゆるり、ゆるゆる、ラオス旅  (第五章)

隠せぬ気品


 タイに戻る日が来た。
 ここからバンコクまでは一気に飛行機で飛ぶ。
 大通りでつかまえたトゥクトゥクは、バイクにサイドカーを付けたタイプで、若い兄ちゃんが運転していた。
 空港まで 「5万キップ」 と寝ぼけたことを言ってきたが、早朝のこんな時間なので、本当に寝ぼけてそんなことを言っているに違いない。
 「2万キップでヨロシク!」
 と、昔の暴走族のように言って、サイドカーに乗り込む。
 朝の空気は冷たくて清々しい〜☆
 …と思ったのはほんの束の間で、走り出したサイドカーは寒い!
 凍死するのではないかと思えるほど寒い! 極寒だ!

 町の中心から空港までは15分ほどかかった。
 空港が開くのが6時からなので、それまで外のベンチに座って待つ。

 警備員に
 「入っていいぞ」
 と言われ、空港ビル (と言っても、平屋だが…) に入る。
 入口にはセキュリティーチェックがあり、身体検査と荷物のX線検査を受けなくては中に入れない。
 ベルトコンベアにバックパックを載せ、身体検査を受ける。
 その先で荷物が出てくるのを待つが、バックパックがX線検査機の中に入ったまま、ベルトコンベアが止まってしまった。
 係員の説明によると
 「機械が温まっていないから」
 との理由らしい。
 ラオスのX線検査機は真空管でも使っているのか?

 かなり待たされたがX線検査を終え、そしてチェックイン、出国手続きはスムーズに済み、搭乗口の待合室へと進んだ。
 この待合室がこれまた寒かった!
 誰もいない早朝なのに、冷房がこれでもかと言うほど、強烈に効いているのだ。
 ここは公共の場なので、良識ある私はじっと我慢をしていたが、後から来た日本人のおねえちゃんたちが、
 「ヤダ〜 何ここ? チョー寒い!」
 とか言いながら、エアコンのスイッチをブチブチと片っ端から切っていった。
 でかしたぞ、ネェちゃんたち! 君たちは表彰ものだ。

 何の感動もなく、わずか1時間40分で ヒョイ〜 っとタイまで戻って来た。
 「飛行機には旅の感動がないな…」
 と感想を抱きつつ、エアポートバスに乗ってバンコク市内に向かう。
 毎度のごとく思うのだが、バンコクは都会だ。 東京とほとんど変わらないではないか。

 高速道路を降りたバスは、大渋滞にハマッた。
 ここからが長かった。
 バスは牛歩戦術のようにゆっくり、ゆっくり進むのであった。
 運転手は携帯電話で話しをしながら運転している。
 危ないではないか!

 目的地のプラトゥナーム市場までは、空港から1時間30分もかかった。
 飛行機に乗っているのと同じくらいの時間がかかったのだ。

 バンコクでの宿は、あらかじめ日本を発つ前にインターネットで予約をしていた。
 人や車がひしめく狭い路地にそのホテルはあった。
 値段は安いが大型の中級ホテルで、ドアマンもいるしフロントもしっかりしている。

 チェックインの手続きをしていると、
 「あなたはラッキーね」
 と、フロント嬢が流暢な英語でそう言った。
 「何が?」
 「部屋がグレードアップされて、VIPルームになりました」
 おっ、VIPか〜
 やはり、溢れる気品は隠せないのだな。
 「差額の料金は払わなくていいんだよね?」
 「もちろんです」
 念のために訊いてみたが、VIPにしてはセコイことを訊いてしまったと、少々後悔。

 案内されたVIPルームはバスのように2等ではなく、正真正銘のVIP≠セった。

 VIPらしく、高級な日本料理店に行って、冷奴をつまみに久々の日本酒を楽しむ。
 「プハ〜ッ うめぇ〜☆」
 こうして11日間のラオスの旅は、あっけなく終わろうとしていた。

(完)



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