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2005年夏 「旅行記」

 01   グレ〜ト!
 「指紋と顔写真の登録をするようになりましたから、入国するのにかなり時間がかかりますよ」
 旅行会社からは事前にそう言われていた。
 9.11テロ以来、アメリカに入国する外国人は、指紋の押捺と顔写真の登録が義務付けられた。
 時期を問わず常に観光客が大勢訪れるハワイ。今回の飛行機ももちろん満席状態。
 「たぶん1時間以上は並ぶことになりそうだね…」
 我々も機内から覚悟はしていた。
 しかし、ホノルル空港のイミグレーションは予想に反してガラ空きで、ほとんど待つことなく入国審査の順番がやってきた。
 「ハ〜イ! ニッポンジン?」
 相変わらず陽気なアメリカ人の入国審査官だ。
 我々のパスポートをパラパラとめくりながら、
 「How long stay… ナンニチ?」
 英語と日本語の入り乱れた質問をされた。
 相手は解かりやすいように聞いたつもりだろうが、日本語が途中に混ざる質問は、その意味が一瞬解らず、答えに詰まることが多い。
 「へぇ!? あ… 4days」
 こちらも日本語の感嘆詞を混ぜての返答になってしまった。
 すると審査官は、
 「Oh! You can speak English. It's Great!」
 「4days」と言っただけで英語が話せると驚かれ、しかもグレート≠セなんて言われ、少々複雑な気持ちだ。
 「すっんご〜い! あなたの英語褒められた〜♪」
 さらに追い討ちをかけるように妻からそう言われ、非常に複雑な心境だ…
 そんなに英語がダメなように見えるのかな?…

 で、肝心の入国審査はいたって簡単で、新たに採用された指紋の登録は小さな箱のような上に左右の人指し指を乗せ、顔写真も“いつの間にか撮られてる”と言った感じでスムーズに終了した。


02   アリゾナの行列
 数年ぶりに『アリゾナ記念館』に行った。
 ここは日本が真珠湾攻撃をおこなった場所で、当時の戦艦が沈められた場所に資料館と慰霊塔が建っている。
 朝7時30分の開館なので、少し早いけれど7時過ぎに現地に到着するように出掛けた。
 「開館するまで駐車場で待ってればいいよね〜」
 そんなお気楽な気持ちで行ったのだが…
 「ゲッ! 何あれ〜?」
 我々が目にしたものは、東京ディズニーランドで言えば2時間待ちほどの長蛇の列だ。
 記念館の前に広がる大きな芝生の広場をぐるりと取り巻くように、人々が開館を静かに待っていた。
 「列の最後尾はどこだぁ〜?」
 やっとのことで列に並んだが、後から後から観光客がやって来て、あっと言う間に我々の後ろへも長い列が伸びていった。
 並んでいる人々を眺めて気付いた。
 「日本人がいないね…」
 朝から並んでいるのは、ほとんどがアメリカ人だ。
 この記念館で上映される20分ほどの映画では、
『日本人の卑怯な奇襲作戦で、多くのアメリカ人が命を失った…』
と言う部分が強調されているため、日本人には肩身の狭い思いをする場所ではある。
 しかし、ただ能天気にハワイに遊びに来るのではなく、歴史もしっかり学んで帰ることも大切なことである。
 映画の最後では、
 「我々アメリカ人は過去を責めるのではなく、事実は事実としてしっかりと受け止めて、これからのアメリカと日本の良い関係を築くことが重要だ」(大統領の演説より)
 と締めくくっている。
 この言葉にはジ〜ンとくるものを感じた。
 日本を良く思っていない近隣諸国の人々も、このような考えを少しでも持ってくれたらな〜 と切に願う。



03   セキュリティー・ガードの椅子
 アリゾナ記念館はバッグ類の持込みは一切禁止である。
 前回に訪れた時はガイドブックで読んで気を付けていたのだが、今回はうっかりしていた。
 1時間以上も並び、やっと入館目前の場所でセキュリティー・チェックにひっかかってしまった。
 自分のデイバッグと妻のハンドバッグの持ち込みができないと、セキュリティーガードから指摘を受けてしまった。
 二人は列から外され、コインロッカーに預けるように指示された。
 「じゃあ、オレが車に置いてくるから、ここで待ってろよ。 いいな、ここを動くなよ!」
 妻にそう言い残し、駐車場まで走った。
 その間にも長い列はどんどんと館内に流れて行く。
 せっかく長い時間並んでいたのだから、それを無駄にはできない。
 幸いにも駐車場はそれほど遠くなかったので、トランクにバッグを投げ入れ、息を切らせながら先ほどの場所まで戻った。
 ところが…
 あれ!? 妻がいない。
 「ここを動くな!」と言ったのに…
 どこに行った〜???
 しばらくキョロキョロと見渡す。
 すると… いた!
 「何であんな所に?」
 記念館の入口には、セキュリティー・ガードが入場者に目を光らせているブースがある。ちょうど、駅の改札口のようなもので、ここで持ち込みできない荷物や不審者をチェックしているのだ。
 その狭いブースの中に、妻が間抜けな顔をしてちょこんと座っていた。
 まるで、迷子になって保護された子どものように…
 ブースを通り抜けていく人々は、この日本人を不思議そうに横目で見ながら入館していった。
 「おいおい! こんなとこにいたのか〜? いいのかよ、勝手に座って?」
 「だって〜、警備員の人がここに座って待ってろって、しつこいんだも〜ん。何回も断ったのに…」
 女性にやさしいアメリカ人。でも、これは少々ありがた迷惑だ…



04   オーディオ・ガイド
 アリゾナ記念館では、オーディオガイドという機械を5ドルで貸し出している。
 各国の言葉で館内の説明をしてくれる機械だ。
 カウンターのおねえさんから使い方の説明を受けた。
 英語だったが、ゆっくりと丁寧に話してくれた。
 「地図にある番号を押せば、そこの解説が流れます。映画には番号がありません」(意訳)
 「OK! サンキュー!」 
 で、早速使ってみた。
 展示物の前に立ってその番号を押すと、懇切丁寧な解説が流れた。
 これはスグレ物だ。
 でも待てよ…
 映画には番号が無いって言ってたな…
 「映画に日本語訳が無ければ意味ねぇよな〜 二人で10ドルも払ったのに!」
 妻と二人、ちょっと不満だった。
 「まぁ、映像だけを観てましょ」
 
 映画が始まった。
 真珠湾攻撃の実写を中心とした、20分程度のドキュメンタリー映画だ。
 内容がほとんど分からないまま、映像だけをしばらく観ていた。
 10分ほどして、首に掛けたヘッドホンからゴチョゴチョと音がしているのに気付いた。
 「あれ、何だ?」
 と思ってヘッドホンを耳に当ててみると、なんと自動的に映画の解説が日本語で流れていたのだ。
 これには妻と二人、顔を見合わせて大笑い ―― いや、映画上映中だったので、下を向いてクスクス笑い。
 「『番号が無い』ってだけじゃ分からないよね〜 『映画はオートです』って言ってくれなきゃね」
 もしかしたら、我々が英語での説明を理解していなかったのかもしれないが…



05   アビバ
 「アビバ≠チて何?」
 妻がブランドショップの店内で小声で尋ねた。
 「へっ、アビバ=H パソコンスクール…かぁ?」
 「違うよ〜 店員さんがさっきから何回もアビバ≠チて言ってたでしょ?」 
 「……!!! アビバじゃね〜よ! ハッハハ〜」
 「え〜、じゃあ何って言ってるの?」
 「I'll be back. シュワちゃんがよく言ってたヤツだよ」
 商品の在庫を確認しに行く時、精算をしに行く時、商品を包装しに行く時…
 店員は我々から離れるたびに、必ず「I'll be back.」と言っていたのだ。
 「あいるびーばぁ〜く って言ってたのか〜 なんだぁ〜 (^^; 」
 妻よ…
 君は本当にそれで英文科卒なのか?…
 


06   ハワイで民謡
 滞在期間中、ワイキキでは 『まつり in ハワイ』 と題したイベントをおこなっていた。
 メイン通りのカラカウア通りでは夕方から歩行者天国となり、数ヶ所に舞台が設置されてイベントが行われていた。
 それを大勢のアメリカ人たちが楽しそうに見物していた。
 人垣の合間から中を覗くと、日本人が半被(ハッピ)を着て和太鼓を乱打していた。
 次の人垣に進んだ。
 そこでも同様に和太鼓の競演だった。
 さらに次の人垣も…
 どうやらいくつかの県からやってきて、ここで地元の太鼓を披露しているようだ。
 「日本にいるみたいね…」

 翌日、アラモアナ・ショッピングセンターに出掛けた。
 妻の大好きなブランドショップ巡りに付き合っていると、どこからか日本の民謡が聞こえてきた。
 「あれ〜?」
 ショッピングセンターの中央にあるイベント広場で、和服姿のおばちゃんたちが民謡を唄っていた。
 これも 『まつり in ハワイ』 のイベントの一環だった。

 ハワイのロコたちには大ウケだったが、青い空と海、太陽が照りつけるハワイで、和太鼓や民謡はちょっと違和感を感じた…



07   バンパーはぶつけるための物!?
 日本とは逆の 『左ハンドル・右側通行』 で常に慎重な運転を心掛けていたが、今回は接触事故を起こしてしまった…
 コンドミニアムの駐車場はかなり狭く、対向車とすれ違うのがやっとの幅程度しかなかった。
 しかも立体駐車場なので、クルクル回りながら上り下りをする。
 空きスペースを探して車を進めていると、カーブミラーに対向車が写った。
 相手もこちらもすぐに停止。
 どちらかがバックしなくては進めない状況だ。
 相手の車は大型ジープ。ここはコンパクトカーの自分が進路を譲ろう。
 素早くギアーを入れ替え、相手に合図のクラクションを 「プッ♪」 と短く鳴らしてギューンとバックした。
 しかし、「ブ〜〜〜〜♪」
 クラクションが長く鳴っている。
 「???」
 次の瞬間、ドッカ〜ン!!
 「あ、やっちゃった…」
 すぐ真後ろに後続車がいたのだ。
 長いクラクションは後ろの車が焦って鳴らしていたのだった。
 相手はアメリカ人の家族。
 お互いに車を降り、ぶつけた場所を確認した。
 相手の車も自分の車もバンパーがややへこみ、キズが付いていた。
 「あっちゃ〜」
 アメリカで交通事故を起こしたらすぐに謝ってはいけない…と言われているが、どう考えても後方確認をしっかりしないでバックした自分に非がある。
 「I'm sorry!!」
 頭を下げ、大声で謝った。
 すると、
 「No problem!」
 と、何事も無かったように車に戻ろうとする運転手。
 さらに
 「Are you OK?」
 と、こちらの心配までしてくれた。
 それですべてが終了。
 何事もなかったように、相手はどこかへ去ってしまった。
 
 帰国日にレンタカーを返却した。
 誘導に従って返却場所に停車させると、2人の係員がすぐにやってきて車体の状況や走行距離のチェックをおこなう。
 トランクから荷物を降ろしている間にチェックが終了し、「問題なし」 と書かれた書類がすぐに手渡された。
 「あれよ、あれよ」 と思っていると、オフィスに行って最終手続きをとるように促され、指示されるままに返却の手続きがすべて終了。
 この間、わずか10分足らず。
 結局、あのキズは“お咎め無し”に終わってしまった。

 やっぱり、バンパーはぶつけるための物… なのかな〜?


08   天気予報は雨
 日本を出国するとき、成田空港の待合室でテレビを観た。
 世界の天気予報を放映していて、何気なく観ていると 「ゲッ!」 と思う画面が流れた。
 ホノルルの天気… 一週間毎日“雨”
 思い切り傘マーク≠ェ並んでいる。
 スコール程度なら傘マークにはならないはずなのに…
 もしかして、ハリケーンの接近か!?
 たまたま日本にも台風が接近していたので、ワイキキビーチに高波が押し寄せ、突風と激しい雨に見舞われたホノルルを想像してしまった。
 テレビを観ていた他の人たちも、
 「おいおい、ハワイは雨かよ… 参ったなぁ〜」
 と口々に言いながら、画面を見入っていた。
 「雨だったら、ずっとお買い物ができるわね〜♪」
 唯一この天気予報を喜んでいるのは、わが妻だけだ。

 で、その結果…
 毎日晴天。 
 スコールも無く、傘などまったく不要!
 
 あの天気予報は何だったの?



(完)

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